8月と9月の中旬にそれぞれ1日ずつ、NHK土曜ドラマのエキストラに参加してきた。今までエキストラに参加してきた人の話はよく聞いていたけど、大好きな役者さんの近くにいられて幸せ♡なんて事は私の場合はないし、演技経験も全くなし。しかも朝早くから夜遅くまで拘束されてヘトヘトなってもいただけるのはお弁当と記念品のみで交通費の支給すらなし。報酬の問題じゃないけど、ちょっと無理。そんな私が今回応募したのは、募集要項に「NHK土曜ドラマのエキストラ募集」と明記してあったからだ。

民放のエキストラ募集はちょくちょく目にしていたし、NHK大河ドラマの募集も目にしたことがある。でも今回は「土曜ドラマ」限定! 子どもの頃からNHKドラマを愛してきた私としては、特に土曜ドラマとあっては参加せざるを得ない!だいたい、私が少しでも応募してみたいと思うドラマのエキストラは、たいてい男性ばかりだったり女性でも若手オンリーだったりするので全くお呼びじゃない。でも今回は60歳代までの男女募集、これは応募しろとドラマの神様が言っている!(違)

しかしどの「土曜ドラマ」なんだろう? 応募した時点ではウェブページの募集要項に作品名の表記はなく、「土曜ドラマ」とだけ。8月初旬のこの時にすでに発表されていて未放送の「土曜ドラマ」は2019年1月放送の「みかづき」と、2018年9月~10月放送の「不惑のスクラム」ぐらい。でも未発表のドラマかもしれないし。ちなみにこの後に2018年10月の「フェイクニュース」と2018年12月の「炎上弁護人」、2019年1月の「母、帰る~AIの遺言~」の放送予定が発表されている。まあ、どのドラマでも「土曜ドラマ」ならOK。

しかし応募から10日以上経っても連絡がない。60代までOKのはずだったけど、まったくの素人だし、やっぱりババァ過ぎたかー。それともあれか。応募の時にアップした全身写真がまずかったか。今年7月末にあった実父の葬式の時に撮影した上から下まで喪服着用の写真だったんだけど。だって全身写真なんて普段撮らないしー(いや、葬式でだって全身写真は撮らないかもしれんが)。とか思っていたら撮影日の5日前にNHK担当者の方から連絡が来る。

そして電話をいただいた翌日、10月放送の「フェイクニュース」の詳細が発表になった(2018年8月14日「主演・北川景子×脚本・野木亜紀子『フェイクニュース』制作開始!」)。なんと「重版出来!」「逃げるは恥だが役に立つ」「アンナチュラル」の脚本の野木亜紀子と「ハゲタカ」「外事警察」「ロング・グッドバイ」「刑事スニッファー」の演出の堀切園健太郎コンビの土曜ドラマ! できればエキストラはこのドラマだったらいいんだけど……。

さて、前日。普段通勤に使っているバッグと普段の通勤着2日分の着替えとのことなので、2日分でいいなら着替えは1枚だけでいいかと思ってカットソーを1枚、同系色のカーディガンを1枚ずつのみ用意。当日は都内某所に朝6時30分に集合。電車の時間を調べて、5時半に家を出れば間に合うので4時に起きれば楽勝~。

…のはずが。当日目が覚めたらスマホの画面には「05:10」の文字!オーマイガー!!あわてて飛び起きて身支度整えて化粧して着替えをひっつかんで家を出る、5時40分、人間やればできるんじゃないか。

そんなわけで指定の集合場所に6時25分に到着。間に合った、でも誰もいない。6時半で合っているはず……。場所も間違っていないはず。しかも近くに大型トラックが何台もずっと停まっている。ここできっと何かがあるはず。と、若手の真面目そうな男性が声をかけてきた。助監督のOさんは手元の手帳で私の名前を確認していたが、覗き込んでみると本日参加のエキストラさんの顔写真入りのリストが貼ってある。挨拶してからさっそく撮影するドラマの作品名を聞いてみる。
「「フェイクニュース」というドラマです」
うっひゃーーーーーっ!!
「あ、「フェイクニュース」ですか。この間発表されていたドラマですよね」
ひゃっほおおぉぉぉっ!もう心の中ではリオのカーニバルだよ!
NHK土曜ドラマ フェイクニュース
(朝日新聞朝刊 2018年10月20日)

近くのビルに案内されてエキストラ控室に入ると、大きなテーブルを囲んで既に6、7名ほどの人が椅子に腰かけていた。隣の人とごく普通に会話している風だったので友達同士で参加しているのかな?と思ったら、半分くらいはどうやらプロダクションに所属している本物の俳優さん達らしい。なんとはなしに聞いていたらテレ朝版「ハゲタカ」のエキストラにも参加していた方もいるようだ。テレ朝の「ハゲタカ」かぁ……。他のエキストラの皆さんも次々と入って来て席に着くと、この間行った「××××」(民放某局のドラマ)の現場はきつかったーとか話している。なんだよ、全くのど素人は私だけか!?

7時くらいに先ほどの助監督のOさんが本日のドラマがどういう物語かというのと、撮影場面の説明をしてくれる。私達は事件の発端となるツイートをした社員が所属する「八ツ峰製菓」というお菓子の会社の社員という設定だそうだ。そしてその会社は一昔前に「竹取の里」というヒット商品を出したがその後はヒット商品は出ていないとの事。

それからOさんが参加者持参の着替えをチェック。おおお、みんな色とりどり、種類も何種類か用意している。私なんか会社に行くような衣類っつー事でこの日は白地のカットソーにクリーム色のパンツ着用、上だけ着替えの紺色のカットソー1枚とカーディガンのみだ。Oさんはテーブルの上に並べられたみんなの着替えを見て「1日目はそのままで、2日はこのシャツとズボンで、3日めはじゃあこれで」とてきぱき決めて行く。そっかー、色々なケースを想定して多めに持って来ているのかあ、皆さんさすが慣れているなあ。

7時過ぎ、控え室のフロアの1階下の撮影現場に、自分の通勤鞄を持ってみんなでゾロゾロと向かう。撮影現場は昭和の中小企業の事務所という感じ。開け放したドア口には「八ツ峰製菓」の社名入りの暖簾がかかっている。ドラマの中で猿滑役の光石研さんがチラッと顔を出して覗き込んでいたあの暖簾だ。中に入ると
・事務所中央の壁には社訓なのか、「八つの峰を越えてゆけ」という謎のフレーズの額が飾ってある
・キャスター付きのホワイトボードには社員のスケジュールが手書き
・ホワイトボードの裏にパンフレットスタンドがあり、「八ツ峰製菓」の会社案内が入っている
・キャビネの上に神棚と「八ツ峰製菓」のお菓子の段ボール箱が置かれている
・デスクそばのキャビネの横に大型のパンフレットスタンドがあり、「八ツ峰製菓」の会社案内の他に工場見学のパンフあり
・あちこちの席に「八ツ峰製菓」のお菓子のパッケージ、「竹取の里」のウサギキャラのポップ、社名入りのミニ幟などが置いてある。
・「八ツ峰製菓」の製品だけでなく多分ライバル会社と思われる会社の洋風なお菓子のパッケージも。
・周囲に社名入りコンテナ箱、社名入りのカレンダー(カレンダーの日付は9月)、壁に「竹取の里」のポスター
・壁に貼ってある「節電」のポスターにも下の方に「お菓子の八ツ峰」の文字
・奥のラックにもお菓子の段ボール箱が並ぶ

ドラマ「ハゲタカ」の時の飯島さん(中尾彬)の神棚やら招き猫やらが満載の役員室や、旅館・西乃屋(宇崎竜童、松田龍平)の事務室のごちゃごちゃ置いてあるセットや小道具などに、NHKの美術さんって徹底してるなーと思っていたけど、やっぱりそれは変わってないようだ。

撮影に係るスタッフさんは既に結構な人数がいたが、それでも次々と新たにやってくる。ドラマの撮影って随分と人数が必要なんだな。揃いのTシャツを着ているチームは下請けの会社の人たちだろうか。どうやら隣の部屋をモニタ部屋にしていたらしく、そこから監督さんの声がする。この作品の演出は前編が堀切園さんで後編が佐々木善春さんという方がクレジットされているが、今日の撮影はどちらが担当なんだろう?

Oさんが他のスタッフさんと話しながらエキストラそれぞれの位置決めをして行く。プロの皆さんはやっぱり主要キャラの席の近くのデスクに、わしら一般エキストラはそれよりは遠くの島のデスクに、貫禄がある男性は窓際の部長席っぽいデスクに。私が部長席近くの席になったのはやはりお局っぽいからか? でもラッキーな事にPCが置いてある席で、しかも電源が入っていて白紙のワードファイルまで開かれている。やった、これなら適当にキーボードを打っていれば仕事をしているっぽくなる。

席に着くと、この事務所は平日は普通に営業していてその会社の人たちが使っているところなので、NHKが持ち込んだもの以外はむやみやたらと動かさないようにという注意がある。それで机の上に何があるかというと、
・並んだファイルや本の上に置かれた書類ケースの中にはお菓子のパッケージの色校正?らしき原稿
・「八ツ峰製菓」の社名入り封筒があり、中には白い紙の束(本当に白紙だった)にところどころに付箋紙つき
・机上に並ぶフラットファイルの背表紙に「食品表示マニュアル(6)」「パッケージ資料 平成3年〜平成5年」「製品企画書 平成26年」「契約書 平成6年〜平成10年」などの見出しあり。中身は白紙だったり関係なさそうな資料の裏紙っぽかった。でも隣の席の人が手に取ったファイルは刑事ドラマか何かの資料として使ったのか、遺留品リストっぽい内容だった。
・席の上や書類の上に何個も置いてあるお菓子のパッケージは傍から見るといかにもお菓子会社っぽいが、実際に何か仕事をするなら絶対邪魔だと思う。
・私が座った席の持ち主は男性らしく、机の下に大きめの黒いサンダルや段ボール箱が置いてあり、デスク自体も使い込まれていて一番下の引き出しには誰かが蹴ったのかそんな感じのへこみあり。トイレや給湯室がまた昭和感満載の懐かしい感じ。そしてこの会社はお菓子とは何の関係もない会社らしい。

そこにこのドラマの事件の首謀者?である猿滑役の光石研さんや役員役の吉田ウーロン太さんなどが登場、メイン撮影の島で台本を見ながらスタッフさんたちと話しているところに隣の部屋から監督がやってきた。おっと、本日は堀切園さんだった。堀切園さんは映画「外事警察」の舞台挨拶の時に見かけてイケメンの久保田利伸というか結構オシャレな人だなと思っていたけど、この日も刈り上げヘアに白いシャツをふわっと着て割とぴったりとしたジーパンに白いスニーカーの出で立ち。堀切園さんは俳優さんたちに小声で何か指示をしていたが、手には何も持たず隣のモニタ部屋と撮影現場を行ったり来たりしていた。

一方エキストラにはOさんからこれから撮影する場面の説明があり、声を出さずに仕事をしている感じで動いてほしいと言われる。すると皆さっさと動き始め、隣の席のAさん(40代くらいの女性、結構なエキストラ歴有)なんかは立ち上がってお菓子の色校原稿を手にして向かい側の男性に提案している風な振りをしたり、私の方に口パクで話しかけてくる。私も頷いて部長っぽい男性の方に出したらどう?みたいな感じを出してみるものの、声を出さずに仕事のふりするって難しい!Oさんからは「みなさん、いい感じです」とお声がかかる。他の皆さんも忙しそうな振りがすごく上手で、結局何もできない私は話しかけられた(振りの)時は頷いてみるけど、後は必死にパソコンで書類を作成している振りをして、ワードファイルにエキストラ現場の実況を入力していた。慣れている皆さんの動きがすげぇ。

しかしあまりにも皆さんがテキパキ動いていたせいか、Oさんから注意が入る。
「この会社、そんなにやる気がある会社じゃありません!もっと適当な感じでいいです」
「(ドラマの中では)だいたい15時くらいで、そろそろ眠くなってきくる時間です」
おっと。そうか、過去にヒット商品があるけど今は鳴かず飛ばずの会社なんだっけ。

撮影は場面を細かく細かく撮っていく。同じ場面を何度も撮っているようで、光石さんと吉田さんの会話場面は何度も同じセリフを聞いた。お菓子の「パリポリ」という食べる音だけ取っていた時もあったし、壁の「八つの峰を越えてゆけ」の額をメインに撮る時に余計なものが映り込まないよう黒いボードを立てて撮影したりしていた。室内は冷房が効いていたが照明のせいか結構暑い。別の助監督さんがカメラが回っていない時に俳優さんをうちわで扇いでいたり、髪の乱れを直していた。

9時半過ぎ、社長役の岩松了さんが登場すると堀切園さんが「皆さんの社長ですからね」と説明してくれる。ちょこちょこ撮って、エキストラは控え室に戻ってお着替えタイム。この時に別のスタッフの方がさらにこのドラマの物語の説明をしてくれる。撮影現場で席に着くとOさんから「昼前の設定なので、ランチはどこに行こうかと探したり何か検索している風で」という指示が入る。そんなにやる気がある会社じゃないもんね。テストとか本番とかの合図が出ると、隣のAさんはスマホをいじって私の方に「お昼はここなんかどう?」という感じでエア相談してくる。私も「いいわね、ここにする?」みたいな感じを醸し出してみたけど、今三つどころじゃねぇ(とほほ)。

そうこしているうちに本当の昼食タイムになり控え室へ。お弁当が配られて、午後の撮影場面の説明がある。今回がエキストラ参加初めてだというBさん(50代くらい。社会人のお子さん有り)に飴ちゃんをもらう。おお、私の他にもど素人がいた!しかしBさんはお子さんに「お母さんはいつも大げさなのよ」と言われているらしく、この後の場面でもその大げさぶりがすごく生きていたのだった。

撮影の時に私の隣にいたAさんは好きな俳優さんを追っかけて出演作品に参加したり面白そうなドラマがあると参加しているそうで、「NHKってやっぱり余裕があるよねぇ、さすが民放とは違うね。この間参加した某局のドラマのエキストラなんか朝から立ちっぱなしでスケジュールもキツキツ、お弁当も出なくてヘトヘトになったわ。それに場面場面の説明をこんなに丁寧にしてくれないから、どの場面をやっているのかもよくわからないんだよね」との事。ちなみにその時は推し俳優さんの主演映画のエキストラに応募中で、返事を待っていたらしい。
「キャストが発表になってからの(エキストラ)募集だと競争率がすごく高くなってなかなか当たらないんだよねー」
「へぇー、じゃ「ハゲタカ」にも応募したの?」
「したけどハズレだったの。まあ、今日返事がくるはずのエキストラは当選しても、撮影している◯◯県までの交通費は自腹なんだけどね」
「ええええーー、あそこに行くのに交通費、自腹!?」
追っかけも色々大変だな。

お弁当を食べているとOさんがエキストラさんに声かけをしている。何かと思ったらスケジュール確認をしていて、もし空いているようだったら次の撮影にも来て欲しいと交渉していた。私も声かけいただき「なるべく同じメンバーで撮影したいので」と言われて、この時は「あ、いいですよ」と答えたけど、ブラック会社じゃなきゃ中小企業でそうそう人の入れ替わりもないだろうから確かに同じメンバーの方がいいんだろうけど、ここで押さえておけばエキストラを探す手間は省けるよね。

12時半頃、撮影再開。午後は猿滑(光石研)がやらかしたことが会社にバレてしまい、みんなが驚くところや、長久保(吉田ウーロン太)がブチ切れる場面の撮影。スタッフがカメラからの距離を測定したり、メインキャストの撮影に入るとハイスピードカメラを使ったり、手持ちカメラを肩にかけて撮影していたり、スチール写真撮りしたり。とにかく細かく細かく撮影している。しかしこう何度も同じ場面ばかり撮っていると見ているだけの私なんかそろそろ飽きてくるし、食後なので欠伸も出がち。すると別の助監督さんから「今の時刻、危険ですよー、寝てないですか?」と声がかかり笑いが起こる。

そして当たり前なのかもしれないが監督も他のスタッフもみんな役者さんを役名呼びしていた。光石さんなら「猿滑さん」、吉田ウーロン太なら「長久保さん」という感じで。

16時半頃、一部を残してエキストラは退場し控え室へ。残っていた人も戻ってくると、最後に控え室で助監督のOさんから記念品をもらったのだが、Oさんは一人一人、名前を呼び、一言何かお礼をいいながら渡していた。ちなみに私が言われたのは、「さすが本物の会社員ですね、リアルでしたよ」でした(笑)。

17時くらいに撮影現場のビルを出て帰宅したのだが。朝から夕方までほとんど座っていただけなのに思いの外緊張したのだろうか、翌日寝込んでしまいましたよ。うーむ、エキストラには向かないのかもしれないな、私。会社を定年後はドラマやテレビの裏方の仕事を何かやってみたいと思っていたけど、こりゃ無理だわ。

そんなわけで次の撮影はどうだったのか、そして実際のドラマで私の姿は映ったのか(笑)は後編で。

(NHK「フェイクニュース」スタッフブログ#2より)
テーマ:テレビドラマ
ジャンル:テレビ・ラジオ