エンディングノート
9月1日に「ライフ」の前に見た予告編で、観てみたいと思った「エンディングノート」を10月1日のファーストデイに見に行ってきた(参照:9月1日「映画「ライフ -いのちをつなぐ物語-」」)。テレビでの予告編や番宣を全く見ない映画なのでほとんど無名の映画らしく、同僚や友達に「どんな映画?」と聞かれた時には「バリバリ営業マンのオヤジが定年退職後に癌になって、自分の葬式までの段取りを色々やるドキュメンタリー」と説明していたのだが、うううむ、話は確かにそうなんだけど、これは「家族」の物語でしたよ。

[映画紹介]
「『ワンダフルライフ』などで知られる是枝裕和の作品などにスタッフとして参加してきた砂田麻美の初監督作となるドキュメンタリー。胃がんに冒され、余命半年と宣告された監督の父・砂田知昭さん。勤続40年以上の元営業マンの知昭さんが、死をどのように受け止めて、最後まで家族と前向きに生きぬいた姿をカメラが追い続ける」(Movie Walkerより)。

私は映画を観る時には基本的には予告編以外の情報は見ないようにしている。見てもせいぜいテレビの映画紹介コーナーくらいだ。とはいえ昨今の映画作品のテレビでの宣伝攻勢はすさまじいものがありいやおうもなく目にしてしまうのだが(←映画「ハゲタカ」がNHK発の映画作品だったためにろくな宣伝が出来ず、ほぼ同時期公開だった「アマルフィ」や「ROOKIES」の陰にすっかり隠れていたことを恨んでいる訳ではない(笑))、その手の映画は大抵観ないからいいのである。そんな訳でこの映画に関しては完璧に予告編しか見ていなかったために、席に着くまで劇場内にやけにスタッフっぽい人やプレスっぽい人がいるなあとうすらぼんやりと思っていたら、映画初日なせいか監督(砂田麻美)とプロデューサー(是枝裕和)の舞台挨拶がありましたよ。まー、他の映画だったら主演俳優の舞台挨拶があったりしたらもっと大騒ぎな状態なんだろうけど、なにせ主演者はもう亡くなっているし、仮に生きていたとしてもごく普通の一般人のじいいちゃんだしな。

なお、エンディングノートとは遺言状のような法的拘束力はない、もっと軽い、死に際しての覚え書きのようなもの。予告編で主人公が自分の葬式までの段取りをテキパキと進めていく様子を見てつい、うちの母親もやりかねないなあとか思ってしまいましたよ。彼女、何せ葬式用の写真は随分前から準備してきちんときれいに撮ったものを用意してあるし(しかも定期的に更新しているし(笑))、帰省するとタンスの中の喪服(着物)を見せて「冬物はこっちで、夏物の絽のやつはこれだから」と説明し、そして「私は葬式なんかしてほしくないから絶対しないでね」といつも主張しているんである。以前東急ハンズで売り物の白紙のエンディングノート(「もしもの時に役立つノート」とか「ライフデザインブック」とか)を見かけた時も「母親にこのノートを送ったらさくさく書き進めていきそう」とか思ったんだったなあ。

で、この日は開映ギリギリ、すでに暗くなっているとこでで席についたので前の方だけ見たらハゲ頭や白髪頭が並んでいて、「もしかして自分の時のためのマニュアルとして見ているのか!?」(←ヒジョーに失礼)とか思ったのだが、見終わってから周りを見回してみるとごく普通に老若男女様々でした。

そんなわけで大したネタバレはないですが念のため、折りたたみます。
最初、主演俳優(笑)である砂田知昭氏のお葬式のシーンがそのまま流されるので、一般人である主人公の一般人のご親戚の方々は監督(故人の娘)の葬式撮影についてなんとおも思わなかったのかなあとか、肖像権にうるさい親戚がいたらそこんとこだけカットだよなあとか(今年は子どもの中学校のPTAの広報部の役員をやっているのだが、イベント時の生徒の撮影時には色々注意しなくちゃならないので特に気になるのだ)、ちょっと気になったのだが、監督は中学生の頃から家族をずっと撮影し続けてきたそうで、そのせいかご家族の皆さんもカメラをほとんど意識してないように見えるから親戚の人たちもそうだったのかしら。

そして次に映し出されるのは、癌告知5分後の主人公の姿。さすがに娘として告知の瞬間の姿は観客に見せられないかと思ったが、これはラストの死の瞬間の描写(迫る夕闇風景に本人の姿ではなく臨終状態を告知する医者の声が重なる)と対になっていて、もしかすると家族としてみせたくないのではなく、最初と最後で一番肝心な部分を見せない事で観客に想像の余地を残すためのものだったのかも。

さて。この映画、何分にも病人が刻一刻と死に向かいつつある様子を描き出しているので、実際に予告編等をみていないともしかするとかなり痛々しいドキュメンタリーと思うかもしれない。しかしそんなことはなく、医者も不思議がるくらいに最後の最後までかなり元気だった主人公が実にユモーラスなオヤジで、そして死に向かうまでの段取りぶりが面白おかしいのである。不謹慎かもしれないが、アメリカ在住の長男が父親の死の間際に戻ってきて、死の床にある父親に葬式の段取りを確認する様もまた面白い。ダンドリオヤジの息子もまたダンドリさんで、確実に受け継がれているものがあるものが感じられて、こういうところをもっともっと強調すればいいのに、と思ったくらいだ。

もちろん、最初の方でタクシー運転手に自宅への道を指示する様子が、現役時代の姿と現在の姿が交互に映し出されることで、根っからの指示好きダンドリ好き、そしてそれが一貫して変わらない様子が短い時間でもよーくわかる描写になっていて編集がすごくうまい(←エラソー)。最初から最後まで娘(監督)のナレーションで主人公の心情を説明しているのだが、画面でもきちんと見せているので、説明もまた画面に自然に溶け込んでいる。

で。しきりにダンドリダンドリと書いたが、別にこの映画はダンドリオヤジの面白おかしいダンドリぶりがメインの物語ではない。これは死への旅立ちという人生最後のプロジェクトに取りかかって真剣に「生きる」主人公と、それをしっかりと見守る家族の物語であり、この家族が実にいい家族なのである。見ている方もすっと入り込めるので、だから話が進むにつれて周りから泣き声や鼻をすする音が聞こえて来る。でもこれは別に泣かせる映画ではない。

この映画のキャッチコピー「わたくし、終活に大忙し」そのまま、楽しめた映画でした。
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テーマ:映画感想
ジャンル:映画
コメント
おもしろそうだね~まぁ、こっちじゃ絶対やらんだろうが・・
ところで葬式の写真だけじゃないよ~
私なんて、両親が一緒に旅行(1週間ぐらい)に出かける際は、中身は知らんけど重要事項が書かれてるような封書預かるんだよ~
多分、葬式には誰を呼ぶとか呼ばないとか何を着れとかお骨はどうしろとか・・・詳しい段取りが書かれていると思われ・・実際開けることになったら怖いよ。しかも、その通りに従わなかったら呪われそうな・・(´∀`;)
思い入れが強すぎるのもアレだよね~
2011/10/17(Mon) 14:15 | URL | きこり | 【編集
私もこの映画のことを知って
見たいなぁと思うのですが、
実際に両親とも癌で送っている身としては
ただならぬ愁嘆場を演じてしまいそうで
やはりやめておこうかなぁ。。。と思いつつ
自分のために見ておこうかなぁ。。。と思いつつ。。。
どっちやねんっ!

うちの母は、遺影を撮らなきゃ、と言いつつ、
撮らないまに逝ってしまったので
仕方ないので、親戚のおばちゃん連中から、
「この写真、いいじゃない。お母さんらしい可愛い笑顔で。
見ているこちらまで笑顔になっちゃうもの」と
お墨付きをもらったスナップ写真が遺影に。
ま、ごめんなさい、っちゅうことで(^_^;)
2011/10/18(Tue) 14:45 | URL | Macky | 【編集
>おもしろそうだね~まぁ、こっちじゃ絶対やらんだろうが・・

まあ東京でもそんなに大々的にやってないから仕方ないかなあ。

>私なんて、両親が一緒に旅行(1週間ぐらい)に出かける際は、中身は知らんけど重要事項が書かれてるような封書預かるんだよ~

うひゃー。今度中身を見てみなよ~。自分の葬式についてはあんだけ拒否してたんだから自分の事よりもとーちゃんの葬式のダンドリメインなんだろうけど。

>しかも、その通りに従わなかったら呪われそうな・

呪われそうな気は確かにするな(笑)。でもいざと言う時は、喪主はよろしくね!(←こんなところに書くなってか)。

>思い入れが強すぎるのもアレだよね~

で、この映画のオヤジは別に思い入れで段どっているわけではないので全然OK(笑)。
2011/10/23(Sun) 22:19 | URL | tsumire→きこりさん | 【編集
>実際に両親とも癌で送っている身としては
>ただならぬ愁嘆場を演じてしまいそうで

闘病ドキュメンタリではないので大丈夫なんじゃないのかとか思ったけど、でも病状自体はは進んでいるし、直前まで医者が不思議がるくらいに元気だったとはいえ、最後の最後はやはり病みやつれていたからヤバイかなあ。私は身近な人間で闘病生活を送って亡くなった人はいないので、先日亡くなったスティーブ・ジョブズが姿を見せるたびに、やせ衰えていくのが気になっていたのを思い出したけど、この映画とは全く別のものとして見ていたしなあ。

>自分のために見ておこうかなぁ。。。と思いつつ。。。

自分のためのマニュアルとして役に立つか、っつーとこれまたビミョー(おいおい、、、)。ま、私も10年以上前にヤブ医者に「もしかすると癌かも」って言われた時は、まず最初にやることは何かな?とか色々準備しなくちゃな、とかは思ったもんだけど。

>「この写真、いいじゃない。お母さんらしい可愛い笑顔で。
>見ているこちらまで笑顔になっちゃうもの」と
>お墨付きをもらったスナップ写真が遺影に。

葬式は生きている人のためにやるもんだから、見ている人の気持ちが重要。だからいいのだ~(笑)。じゃ、この次のハゲタカ遠足ではお互い、いざという時の写真でも撮りあいましょうか(おいっ!)。
2011/10/25(Tue) 00:43 | URL | tsumire→Mackyさん | 【編集
見てきましたよん。
やはりハンカチが必要でした・・・(T_T)。
享年69歳。うちのパパと同じ。
でもうちのパパは、最後の3ヶ月弱は
まったく意思の疎通が出来なかったから
「今までありがとう」
「愛してるよ」
な~んて言葉を交わせなかったのが残念。

一番、ほほぉぉ~と思ったのは、長男と女性陣(主にママと長女)の考え方の違い。
うちも兄がいるんだけど、こんな感じ方をするんだ。。。と思ったことが何度かあったからなぁ。
あの違いって性差なのか個人差なのか。。。

さ、次はガラリと違う『ステキな金縛り』を見ようっと。
2011/11/07(Mon) 18:12 | URL | Macky | 【編集
なるほど、この映画はドキュメンタリだけど(とはいえかなり映画的編集がされているけど)家族をしっかり描いているだけに見る人の家族経験によって色々かなりちがってくるのね。まあうちの親もいつぽっくりいっても全然不思議じゃないトシなんで、最近は北海道から電話がかかって来るともしや?とか思うようになったなあ。

>うちも兄がいるんだけど、こんな感じ方をするんだ

これはどうなんですかねえ。私はあの父ちゃんの血筋らしくて面白かったですけど(もちろんそういうのもまた強調するような編集だと思うけど)。

>さ、次はガラリと違う『ステキな金縛り』を見ようっと。

私の次の鑑賞候補は「マネーボール」「サラリーマンNEO 劇場版(笑)」「猿の惑星 創世記」「アントキノイノチ」あたりかなー。
2011/11/09(Wed) 23:22 | URL | tsumire→Mackyさん | 【編集
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