おおやちき展
昨日まで森下文化センターで「おおやちきの世界展」を開催していたので2月23日に見に行ってきました。いやあ、ため息をついてしまうようなおおやちきの元の原画の美しさもさることながら、展示してある関連雑誌資料が網羅的で、まさにこの資料の展示そのものが実におおやちき的と言ってもいいかもしれない。そして、3月2日にマンガ評論家の藤本由香里氏と漫画家の松苗あけみ氏によるトークイベントがあるというネタはtwitterから掴んでいたので申し込んでみたら、定員150名のところ141番目で、あともうちょいでアウトでした。

トークイベント「りぼん」と「ぶ〜け」とその時代
そんな訳で3月2日にちんたら会場に向かったら当然満員御礼で受付からずらーーっと人が並んでいる。その並んでいる行列の中から「Kさん!(←私のリアルネームね)」という声があって見てみたら、なんと大学の漫研時代の後輩の子達が4、5人いてびっくり。久しぶりすぎる。トークイベントの後に何人かと夕飯を食べつつ、懐かし話ではなく昔のようにマンガの話で色々盛り上りしゃべくりまくって楽しかったのは置いておいて。

トークイベントの方は非常に中身の濃い、聞きごたえのある充実したものでした。司会の藤本さんはともかく漫画家の松苗さんがあんなに面白いトークをする方だとは思わなかったですよ。しかも松苗さんの漫画に対する愛とか、他の作家さんの作品への洞察と理解がまた素晴らしい。以下、超簡単に備忘録として残しておきます。乱暴にメモしただけなので聞き取れなかった所も多々あり非常に雑な覚え書き、どうかご容赦のほどを。以下、敬称略、失礼(松苗さんと藤本さんはトーク中は当然普通に敬称をつけて話されています)。

ステージ上のスクリーンには次から次とおおやちき他の作家の作品や漫画雑誌の表紙などが投影され藤本由香里と松苗あけみのトークでイベントが進行、話の流れとしては大まかに、1、おおやちきの作品およびエピソードについて、2、雑誌「りぼん」→「リリカ」→「ぶ〜け」への流れについて、3、松苗あけみが一条ゆかりのアシスタントとして参加した前後の話、4、松苗あけみのデビューから現在まで、5、質疑応答、という感じ。なお、おおやちきは漫画家時代は「大矢ちき」というペンネームだったので、以下「大矢ちき」という表記をしておきます。

[トークより]
・(大矢ちきの)「雪割草」のラストシーンの点描は一条ゆかりが描いていたが、時間にうるさい編集が来ててギリギリだったのに一条ゆかりがまだ描くからといって2時間延ばした。
・リリカの編集部で初めて大矢ちきに会った時は歴史上の人物に会った、という感じがしたのに、本当に優しくて控えめな人だった。
・松苗あけみの高校の後輩がくじらいいくこで、彼女がデビューして間もない頃にりぼんに持ち込んだらデビュー前の内田善美の作品を見る機会があってファンになり、ファンレターを自宅に出して以降(くじらいいくこと内田善美が)親交を深めた。当時内田善美は一条ゆかりのアシスタントをしていたが女子美の卒業制作と重なって忙しくて後任をさがしていた。その時に内田善美と同じ女子美に通っていた(松苗あけみの高校の時の)先輩から声がかかって内田善美と知り合った。
・漫画家には2種類あって、絵が描きたくて漫画家になる人と物語を読んでもらいたくて漫画家になる人がいる。物語を伝えたいっていう人の方が長続きするような気がする。一枚絵で勝負できるような人が漫画を描き続けるのは相当つらい事なのではないか。内田善美と水樹和佳が「お互い、絵柄を呪った事ない?」「あるある」と言っていた。
・リリカに多士済々な作家が描いてたのはカラーで原稿料が高かったから。また小学館系の作家が多かったのは小学館には(当時どの出版社にもあった)専属制がなかったために自由に描けたから。
・リリカが1979年3月に休刊して、ぶ〜けの編集長からリリカが休刊するから描かない?と声をかけられたが、当時リリカの次の号の原稿を描いていたので驚いてリリカの編集にもう描かなくていいのか?と聞いたらそれは描いて下さいと言われた。
・ぶ〜け誕生にはりぼんコミックからの流れがある。りぼんコミックは作家性を大事にする雑誌でりぼんよりも売れてしまったが、ノンノを創刊する事になり予算の関係からりぼんコミックが休刊になった。その後りぼんからりぼんデラックス、ぶ〜けという流れができた。
・ぶ〜けはお金がなかったのでオールカラーでも三色印刷だった。色の再現をする印刷屋の職人芸がすごかった
。黒が使えないから茶色を使ったりした。
・松苗あけみがぶ〜けの表紙を描くようになってから、表紙(表1)と裏表紙(表4)と背表紙がつながった1枚絵になったが、原稿のサイズがでかくなって机の上にのらないくらいだった。

[質疑応答より]
・内田善美、八代まさこ、三岸せいこの消息は?
→内田善美は実家で元気に暮らしている。先輩の中には連絡をとって人もいるのでそのうち会えたらと思っていながらもなかなか……。でも会えたらせめて作品の復刊だけでもお願いしたいと思っている。八代まさこは編集の人から聞く程度しかわからない。三岸せいこはぶ〜け執筆当時学校の教師をしていたが、学校の仕事はどうしても辞められないので漫画を描き続けることは出来なかったとのこと。
→当時女性の漫画家は少女誌でデビューするしかなかったが今なら青年誌でデビューして活動することができる。青年誌なら臨機応変に描く事ができるので、内田善美も大矢ちきも青年誌という道があってそこに活路を見出していれば今も作家を続けていたと思う。大矢ちきも内田善美も登場が早過ぎたのかもしれない。
・(一条ゆかりの「デザイナー」の中で)大矢ちきが柾を描いていたり、松苗あけみが(一条ゆかりの
)「有閑倶楽部」で王子様を描いていたが、どういう時に他人の作品に描く事になるのか?
→先生が忙しいとき。描いている暇がないとき(笑)。
・ぶ〜けの三色分解印刷を初めて知ったが、原画を見てもあまりわからないが。
→本当に印刷屋の職人技がすごかった(笑)。原画は普通に描いていたが、でも色が出やすいように黒の部分を茶色で描いたり、黄色・ピンクが多いときは青は使わないとか、青主体の時は緑を入れたりという工夫はした。

……という感じで色々はしょりつつざっくりと。

おおやちき(大矢ちき)
「おおやちきの世界展」会場内は撮影禁止だったし、トークイベント中の撮影もマズイかと思って写真を撮っていなかったので、とりあえず大矢ちきの手持ちのスクラップをピックアップしてみました。↑光と影、陰影の中の色彩が非常に美しいシリアスな絵とポップでコミカルな絵を同時に描ける漫画家さんでした。……って、今もイラストレータとしては現役ですけど。

しかしまあこの会場(江東区森下文化センター「田河水泡・のらくろ館」)の蔵書のセレクトがまた素晴らしい。漫画好きをうならせる蔵書ラインナップもさることながら、どのコミックスも多分一番最初に出た形の単行本を収蔵しているのではなかろうか。私は本の初版には全くこだわらないが最初に出た単行本の形にはちとこだわりたい所があるのでこれまたなかなかうれしいラインナップ。

これはこの次のイベントにも是非とも期待したい所です。
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コメント
漫画愛
おおおお、大矢ちき!!!
あの強迫神経症のような美しい絵。
考えるとあれが全部手描きだったんだから、当時の少女はずいぶん贅沢な漫画体験だったんだな。
おまけに印刷屋の職人芸に支えられてたとは!
あれをPCで描いても、あの迫力は出ないし、怨念もこもらない気がする。

「ぶーけ」は残念ながら、漫画を暇つぶし的にしか読んでない頃であんまり思い入れのある作家はないけど、もっと後になって子育てで知り合った友人が吉野朔実が好きでいろいろ借りて読んだっけ。

Tsumireさんはオタクというよりもはや研究者。その海よりも深い漫画愛をぜひ本サイトで一大少女漫画体系にするのじゃ!
老後の楽しみに待っておるぞよ!

後輩って?イカンひとりも名前が思い出せない……私がアルツになる前に ↑ 作ってよ〜。
2013/03/07(Thu) 23:07 | URL | oha~ | 【編集
ご無沙汰してます。

楽しそうなイベントですね!やはり東京はこういうイベントが多いのがいいな。羨ますぃ。

一条ゆかりと松苗あけみがお互いコマの端でしょうもないやりとりをしてるのが面白くて好きでした。
その頃は2人がどういう関係なのかもよく知らなかったけど。

ストーリーを描くのが好きなのは里中満智子で絵を描くのが好きなのが一条ゆかりって何かで読んだ記憶があります。

懐かしい人とたーっぷり好きな事の話するっていいね~!
2013/03/11(Mon) 00:51 | URL | BOOKO | 【編集
>考えるとあれが全部手描きだったんだから、当時の少女はずいぶん贅沢な漫画体験だったんだな。

大矢ちきもそうだけど、今思い起こすとなんて贅沢だったんだろうという事は沢山あるみたいだよ。そしてそんな贅沢でなおかつ少女漫画の革命時期(←大げさ?)にリアルタイムで数々の名作を読めたのは幸せな事だよね。

>あれをPCで描いても、あの迫力は出ないし、怨念もこもらない気がする。

それはなんとも言えない(笑)。

>「ぶーけ」は残念ながら、漫画を暇つぶし的にしか読んでない頃であんまり思い入れのある作家はないけど、

ぶ〜けは、私的に超面白少女漫画雑誌の流れの中にある雑誌なんだよね。1967年頃・週刊マーガレット→りぼんコミック→りぼん→1970年頃・別冊マーガレット→1971年〜73年・別冊少女コミック→りぼん→リボンデラックス→リリカ→1977年頃・LaLa→1980年頃・ぶ〜け、って感じかなー。

>その海よりも深い漫画愛をぜひ本サイトで一大少女漫画体系にするのじゃ!

できればやってみたいものです。

>後輩って?イカンひとりも名前が思い出せない

えー、当日いたのは玲くん、せっちゃん、千代子、他2名(←名前が思い出せない)。皆、久しぶりに会ったのに漫画の話になるとそんなブランクを全く感じないのがすごいよ。
2013/03/17(Sun) 23:53 | URL | tsumire→oha~さん | 【編集
>楽しそうなイベントですね!やはり東京はこういうイベントが多いのがいいな。羨ますぃ。

確かに東京はイベントに恵まれていますね。行きたいイベントに参加できる訳ではないけれど、確かに地方の方よりは恵まれてますよね。まあ地方の場合(っつうでもBOOKOさんは京都だから「地方」ではないけどさー)イベント開催があるけど、わざわざ主催されるなりのなんらかのプラスアルファがあることはありますけどね。

>一条ゆかりと松苗あけみがお互いコマの端でしょうもないやりとりをしてるのが面白くて好きでした。

当時のプロの漫画家さんたちの交流が作品から伺われて面白かったですね。

>ストーリーを描くのが好きなのは里中満智子で絵を描くのが好きなのが一条ゆかりって何かで読んだ記憶があります。

へぇーー。里中満智子がストーリーテラーと思ったことはないですけど、確かに絵で見せる作家さんじゃないですよね。

>懐かしい人とたーっぷり好きな事の話するっていいね~!

そうなの。しかも昔を懐かしがるのではなく、ちゃんと今の漫画の話を出来るのがよかったです。
2013/03/18(Mon) 00:10 | URL | tsumire→BOOKOさん | 【編集
はじめまして
初めてコメントさせて頂きます。
キクチと申します。

ちょっと調べモノで検索をしていたら
こちらのブログに辿り着きまして。

記事の内容に感激して、
コメントまでさせて頂いております。

自分がこのイベントに気付いたのが最近なので、
トークイベントも含めて参加されているのが羨ましい!

でもこうしてトーク内容等を教えて貰えて、本当に嬉しいです!
ありがとうございます ^_^

おおやちきさんの事は勿論ですが、
内田善美さんについても話されていたというのが嬉しい限りです。
騒いではいけないと思いつつ、内田さんが元気にされていると聞くだけで気持ちが高ぶります。

素敵な記事をどうもありがとうございました ^_^

また、お伺いさせて頂きます!

2013/10/09(Wed) 20:51 | URL | キクチ | 【編集
こんにちわ、はじめまして。コメントありがとうございます。

イベントは松苗さんのお話が本当に面白かったです。話の内容もさることながらシャベリが面白くてあっという間の時間でした。滅多にない機会にお話を聞くことができて本当によかったです。

内田善美については非常に多くの人がどうしているのか、新しい作品を描いてくれないか、それが駄目ならせめて再販してくれないかなどリクエストは多いと思うんですけどね。

またこういう機会がありましたら参加してブログにアップしたいと思います。これからもよろしくお願い致します。
2013/11/06(Wed) 23:42 | URL | tsumire→キクチさん | 【編集
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