2016年06月27日 (月)

あの萩尾望都のあの「ポーの一族」の続編が40年ぶりに出るというニュースを聞いたのは、2ヶ月近く前のことだった(「ポーの一族:40年ぶり続編 フラワーズに読み切り掲載へ」)。情報をタレこんでくれたコミケの時の助っ人・同僚M様と予告カットを見て「どうなんでしょう、これ?」「やっぱ絵が違うよね。なんか、肉感的というか、夢の中の存在じゃない感じだよなー」などと言っていたのもすっかり忘れていた先月末の5月28日、所用があってたまたま外出しその帰りに立ち寄った本屋のレジ前に平積みされていた掲載誌フラワーズを目撃、もう10年くらい萩尾作品は読んでないけどとか迷ったものの、まあこれは宿題だしと思いつつ購入いたしました。
帰宅後に買った雑誌を取り出して40年ぶりとやらの「ポーの一族」の最初のページを開く。絵が違うのはもうそれは仕方がないことだから置いておいて。構図がなんか違う……。最初のキャラの見せ方も違う。昔の「ポーの一族」だったらまず遠景から入って、キャラも一つのコマでアップを入れたら他のコマはもっと他の情報がわかるように引いて描写していた……。特に今回のこの主人公、周りから浮いている感を際立たせるためにもっとポツン感がある描写になったはず……。
いやいやいや、続編といったって作品はその時の作者とその時代のもの、かつての作品と同じでなくてもかまわない、続編が作られるにいたった時間の経過も続編の作品の一部。続編には続編なりの描写があり世界がある。以前のものと同じものを求めるならそれはコピーでしかないし、新しい何かがあって、何らかの展開があってこその続編ではないか?
そんなこんなで結局3ページ目まで見て放置していたのだが、世の中はコレをめぐって結構大騒ぎであったようで、先々週は週刊文春の記事にまでなっていてビックリだ。
・コミケの助っ人・同僚M様は関東の端っこの県在住のため休みの日は何かイベントでもなければ家をあまり出ないそうだが、この日はたまたま絵画展を見るため朝から上京し展覧会の前に立ち寄った本屋で掲載誌を見かけて、「荷物になるよなあ」と思いつつも購入したとのこと。絵画展を見終わってからまた本屋に行ったらすでに売り切れになっていたという。
・同僚T田(お局歴30年、上の娘が今年就職したばかり)は発売日の翌週の月曜日に気がついて買おうと思ったらもうすでにどこの本屋にもなく、会社近くの大型書店3軒(ジュンク堂、三省堂、旭屋)にもまったくなくて予約も受け付けてもらえなかったとのこと。先日の重版でやっと入手したそうだ。
・新潟の女教師S川も発売日に買いそびれてそのままだったため近所の大型書店に日参してやっと重版版を入手したとのこと。次を買い逃したくないので定期購読を申し込んだという。
・同僚M田(かつて「スラムダンク」全31巻を貸してくれたが、私が10巻目で挫折して本を返したら「だったら飛ばして最後の5巻だけ読めば十分だよ」というファンの皆様に確実に怒られる発言歴あり)も油断していたら買い逃してしまい、やはり都内の大型書店をかなり回ったそうだが入手できず、予約も受付不可でできなかったため電子書籍版を購入したという。あとで「あの付録の話ってさあ、どういう形の付録だったの?A5サイズとかB5サイズとかの別冊?」と聞かれて、電子書籍版だと付録感が全くないんだなと初めて知ったわ。
・大学のサークルの後輩は発売日の開店時刻に書店に行ったらすでに売り切れていて何軒か回ったものの入手できず仕舞い、断固として電子書籍ではなく紙媒体で読むと心に決めて、なんとか伝を頼って本編を読むことができたという。
いやあ、そんなことがあったとは露知らず。最近はめっきり漫画雑誌を買わなくなってしまい、唯一毎号買っている「MELODY」(隔月刊)ですら2ヵ月後の次号発売日直前に買うという体たらくで、今回もあの日に外出していなければ、そしてその時会っていたのが非常に濃い漫画研究関係の方でなければ、多分見逃していた事だろう。

(当時の「ポーの一族」初コミックス予告)
そんな訳で6月初めのとある平日、同僚M様と同僚T田で今回の「ポーの一族」について語るためランチをすることになり、「じゃ、当日までに全部読み終わっている事!宿題だから!」とT田に指示されたため、ランチ当日の朝に慌てて読了したのである。
M様「絵がね、やっぱり違うでしょ。エドガーなんかすごくリアルな感じで」
T田「そうだよねぇ、なんかこう、(バンパネラじゃなくて)人間みたいだよね」
私「エドガーはねぇ……。でも40年も経ってりゃ絵が違うのは仕方が無いよ」
T田「えー、そうなの? 漫画家の絵ってそんなに変わる物なの?」
M様「昔のコミックスと今の絵を比べたら皆それなりに少しずつ変わってはいますね」
私「今回の「ポーの一族」は絵だけじゃなくて構図とかお話の進め方とかキャラの見せ方とか描線のタッチとか、もう、何から何まで変わっているし。だいたいね、絵が変わっているっていうなら「小鳥の巣」(1973年)の連載が終わって萩尾望都がちょっとヨーロッパに行って帰ってきてから描いた「エヴァンズの遺書」(1975年)だって、もう絵がすごく変わっていてバリバリに違和感ありまくりだったよ。でもさ、絵なんて変わるのが当たり前なのよ。私はね、面白ければいいの。絵がどんなに変わろうとも何かの物語世界がしっかりあってお話が面白ければね」
M様「面白かったですかあ?」
私「まあ……、少なくともリアルタイムで昔の「ポーの一族」を読んだときのような、魂を丸ごと不思議な世界に持って行かれるような感じは全くなかったけどさ。でもそれは作者のせいばかりじゃなくて、もしかするとわしらがトシとったせいなのかもよ」(3人とも40代末〜50代)
M様「あー、それは確かにありますねぇ。若いころと同じようには読めなくなったというか、心身ともに色々ガタが来ているというか。大体本を読む時に目から離して読んだり」
T田「漫画家名だけじゃなくて作品名が全然出てこないよね」
私「そうそう、肝心の名前が出てこないのに、別の雑誌で連載していた作品がドラマ化されてその主演は誰だった、みたいな無駄な周辺情報ばかり色々思い出したりしてさ」
M様「昔なら気になってこだわってた部分もスルーして読めるようになりましたね」
私「でも本を読んでてもすぐ眠くなって全部読みきれなくなったわ」
M様「あります、あります。(通勤)電車の中でも昔なら一気に読めたのに今は熟睡しちゃいますもの。読み続けられる根性がなくなりましたよ」
私「でさー、今回のポーで私が一番気になったのは、お話の見せ方がすっっっっっごく説明的だったことなんだよ」
T田「説明的って?」
私「昔のポーだったら、ちゃんと絵で見せてくれて必要な事は必ずどこかに言葉ではなく絵で描かれていたから、いちいち説明されなくても見る所を見てさえいれば登場人物達の行動や背景や気持ちが読み取れていたのよ。それが今回はいちいち台詞や文章で説明されているのが気になったわ。あとどうでもいい事だけど、キャラのアップが結構多くてモブシーンや小さい物の描写が少ない感じで、もしかして萩尾望都は老眼のせいで小さい物が描けないのかなとか思った(←暴言!)」
T田「へぇー。なんか、私はよくわかりませんでした(キリッ)」
M様「今回、何も描いてないですよね? お話が何もないと言うか。期待が大き過ぎたのかなあ」
私「つか、大きな物語のプロローグだよね、あれは。まだ何も始まっていない」
M様「前後編で次は次号に載るんでしたっけ?」
私「当初は前後編だったみたいだけど、今回見てみたら"Vol.1"ってなっていたから3回以上はあるんじゃない? しかも次回は今年の冬って書いてあったよ」
M様「なんだ、そんな先なのかー」
私「でも次はもう都内の本屋のどこにもない、なんてことは無くなるかもね」
今回は思いのほか「ポーの一族」愛を掘り起こされた人が沢山いたことにびっくりだ。

(別冊少女コミック1973年6月号の「小鳥の巣」最終回予告)
さて、「ポーの一族 春の夢」。どうにもこうにも考えがまとまらない。ランチの時は技術的な問題で暴言を吐きまくりだったけれど(ファンの皆さん、本当にすみません、、、)作品そのものに対してはまだ保留だ。まず続編の「春の夢」そのものがどうなのか。続編の意義とか意味ってなんなのか。シリーズの中でこの作品はどうなのか。そして、「ポーの一族」の「ポーの一族」(1972年)が連載された時にエドガーと同じ年だった私はずっと「ポーの一族」シリーズとともに年を取り、エドガーの年を越して40年以上が過ぎてしまった事に対して思うことがあったり(ま、他人は興味ない事だが)、あれらの作品をリアルタイムで読む事ができたのはなんて幸せな事だったかと思うし。夢の中の存在であったエドガーの軌跡を追い続け、年老いた自分の前に40年以上前と変わらぬ姿で現れたエドガーに対して、なんとか彼らの現実の片鱗をとらえようとしたジョン・オービン、彼の心情が自分に重なるお年頃なのにも色々思うことがあったり。うううううむ。多分、連載が終わらないと何も言えねえ(by 北島康介)(←結論はそこか!?)。

(1976年「エディス」より。グレンスミスのように(笑)何度も何度も繰り返し読んだ最初のコミックスからスキャンしたのですっかり黄ばんでいるが)
また「続編」についても、映画「ハゲタカ」を見て以来、幸せな続編ってなんだろうと考えてきたので色々思うことがあるのだが、それはまた別の記事で。なんだ、結局40年ぶりの「ポーの一族」についてジタバタした事した事しか書いてないな(とほほ)。
<追記>(2016.7.3)
コメントでoha〜さんからタレコミがあったので朝日新聞の天声人語の記事を載せておきます。

Tsumireさん、さすがじゃ。買ったのね。
私なんて一昨日の天声人語で初めて知ったくらい、情報弱者になってたわい。
天声人語もネタにするなら重版出る前にして欲しかったよ(←八つ当たり)
あわてて8月号買うとこだったけど、次回は冬なの?
その頃には安価な古本が手に入ることを期待しよう。
>今回はいちいち台詞や文章で説明されている
それはちょっと気になるなぁ。
まさかと思うけど、橋田寿賀子化したっってこと?
私なんて一昨日の天声人語で初めて知ったくらい、情報弱者になってたわい。
天声人語もネタにするなら重版出る前にして欲しかったよ(←八つ当たり)
あわてて8月号買うとこだったけど、次回は冬なの?
その頃には安価な古本が手に入ることを期待しよう。
>今回はいちいち台詞や文章で説明されている
それはちょっと気になるなぁ。
まさかと思うけど、橋田寿賀子化したっってこと?
2016/07/03(Sun) 17:58 | URL | oha~ | 【編集】
いやあ、どうも。
天声人語は読んでなかったわー。そんな訳で一応記事の方にも載せてみました。ありがとう〜。
>その頃には安価な古本が手に入ることを期待しよう。
安くはならないかもしれないけど電子書籍版もあるでよ。
>>今回はいちいち台詞や文章で説明されている
>それはちょっと気になるなぁ。
>まさかと思うけど、橋田寿賀子化したっってこと?
まさか。普通に読んでいたら気にならないレベルだから安心して(笑)。ただ私の場合は頭の中の倉庫に40年前の「ポーの一族」があるからさ、仕方ないのよ。いちいち昔の場面が頭の中の中で踊り出しちゃって。だいたいさー、昔だって台詞が多い場面は沢山あったのよ。でもさ、昔は物語のリズムを整えるためのものだったり、キャラを浮き上がらせる物だったりで、言葉の多さはほとんど物語の説明のための物じゃなかったんだよね。そこがちょっと残念。
そしてそれはトシをとるといちいち指差し確認しないとちゃんと処理が出来たのか不安になるように、描かずにいられないのかなあとか、あるいはもう読者を信じていないから説明せずにはいられないのかなあとか思っちゃったのさ。まあどちらにしてもこの40年の月日の長さにしみじみよ。
天声人語は読んでなかったわー。そんな訳で一応記事の方にも載せてみました。ありがとう〜。
>その頃には安価な古本が手に入ることを期待しよう。
安くはならないかもしれないけど電子書籍版もあるでよ。
>>今回はいちいち台詞や文章で説明されている
>それはちょっと気になるなぁ。
>まさかと思うけど、橋田寿賀子化したっってこと?
まさか。普通に読んでいたら気にならないレベルだから安心して(笑)。ただ私の場合は頭の中の倉庫に40年前の「ポーの一族」があるからさ、仕方ないのよ。いちいち昔の場面が頭の中の中で踊り出しちゃって。だいたいさー、昔だって台詞が多い場面は沢山あったのよ。でもさ、昔は物語のリズムを整えるためのものだったり、キャラを浮き上がらせる物だったりで、言葉の多さはほとんど物語の説明のための物じゃなかったんだよね。そこがちょっと残念。
そしてそれはトシをとるといちいち指差し確認しないとちゃんと処理が出来たのか不安になるように、描かずにいられないのかなあとか、あるいはもう読者を信じていないから説明せずにはいられないのかなあとか思っちゃったのさ。まあどちらにしてもこの40年の月日の長さにしみじみよ。
2016/07/03(Sun) 23:17 | URL | tsumire→oha~さん | 【編集】
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