早いもので今年の8月であの渥美清が亡くなってまる10年になるらしい。亡くなる前にNHKで放映した渥美清の寅さん密着特集番組を見た。そのあまりの痛々しい老けっぷりに、新作の寅さんのポスターを見ても「もう、寅さん、演らなくてもいいじゃないか」と思ったものだった。それからしばらくしてからだった、渥美清の訃報を聞いたのは。

さて昨日見た「プレミアム10 渥美清の肖像~知られざる役者人生~」(NHK、9月4日22時)は浅草時代から亡くなるまでの渥美清の姿を追った特集番組。渥美清の活動から主に出生から浅草時代、テレビ時代、そして寅さん時代の三つのパートに分けて描かれていた。資料映像やTVドラマ場面、映画の一場面などをの合間合間に、イッセー尾形の朗読による渥美清の声(途中子どもにチャンネルを取られて見られなかった部分があるのでよくわからないが、インタビューや自伝、エッセイなど文章で残っているもの)が淡々と読み上げられていた。

私が子どもだった頃は父に連れられて盆と正月と言えば寅さんだった。それがいつのまにやらあまり見なくなって、大学に入ってからは全く見なくなったものだったが、その代わりごくたまにではあるが寅さん以外の渥美清のドラマを目にするようになった。土曜ワイド劇場第一作「時間よとまれ」(1977年7月2日放映、テレビ朝日系?)とか「東芝日曜劇場 放蕩一代息子」(1973年10月14日放映、TBS)、「東芝日曜劇場 放蕩かっぽれ節」(1978年5月14日放映、TBS)、映画「拝啓、天皇陛下様」などなど。あー、そういえば「八つ墓村」(映画)も見ましたよ。あれ? もしかして私ってば渥美清の追っかけ? まあそれはともかく、私の中では渥美清の寅さん成分はかなり薄いほうなので、昨日の番組のような構成はなかなかようございました。

昨日の番組の中で印象的だったのは、渥美清は寅さん役以外の仕事もやりたがっていたんじゃないのかというインタビューに対して、「男はつらいよ」の監督をやっていた山田洋次が「(渥美清は)見ている人たちから俳優名よりも(寅さんという)役名で呼ばれるようになるのが役者としてが一番だといっていた」、寅さんに対して疑問や躊躇はなかったというのに対して、脚本家の早坂暁が「(渥美清が)寅さん演るの、飽きちゃったよ」と言うのを聞いていたという話と、「せきをしても一人」で有名な俳人・尾崎放哉のドラマ製作が早坂暁脚本・渥美清主演で進んでいたが直前でだめになってしまい、以降渥美清は寅さんのみになっていった、という話である。渥美清はかつて「寅さんは24時間(いつでも見てくれる人に)手を振ってなくちゃならないからね」と言っていたらしい。寅さんは、渥美清にとって何よりも得がたい役柄でありながら、こういう言い方をするのも失礼かもしれないが、寅さんという名の牢獄でもあったのではないかという気もする。

番組の中ではもちろんかつて放映された寅さん最終作密着ドキュメンタリー番組の一部も流れた。それには私が昔見たときに思ったように、やはり老いて疲れた渥美清が映っていた。このときにはもう癌にかかっていたということを知っている今見ると、なおいっそう病気のせいもあってやつれているのだということがわかる。でも同時に映し出された最終作「男はつらいよ 寅次郎紅の花」のスクリーンの中の寅さん(渥美清)はそれほどの老いも疲れも感じられなくてびっくりだ。それは渥美清の演技力や執念だったのか、それとも映画のマジックだったのか。うーむ。素人の私にはまったくわからんが。

なお、渥美清については「おかしな男 渥美清」(小林信彦、新潮文庫)がオススメ。私生活の公表を頑なに拒みつづけた渥美清の数少ない友人として、寅さんよりはるか以前から現場で渥美清を見続けてきた小林信彦の、喜劇人シリーズの中でも一番の評伝であり読み応えのある1冊である。浅草時代から一緒に活動をしてきた関敬六(先日訃報を聞いたばかりだが)の「さらば友よ」(ザマサダ、262p、絶版になっている模様)も、近しい友人ならではの渥美清の姿を見ることが出来る。
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テーマ:テレビ番組・ドラマ
ジャンル:日記
コメント
昨夜の番組はDVDに撮って、まだ見て無いけど、小林信彦の本は読んだことあるわ。
私は渥美清=寅さんだったので、この本のいい人どころかけっこう危ない人:渥美清に少々ショックでしたが、さすがKさん、変人は変人を知る。
寅さん以外の映画はよく知らないけど、寅さんも初期のを見ると、むちゃくちゃな奴だよなぁ・・。
そういや、アニメ初期のサザエさんもカツオやサザエさんの波平に対する態度がけっこうひどくて、波平血圧上がってる感じだったよなぁ~。
昔の方が現実が今ほど殺伐としてないから、返って変な気を使わんで済んだんだろーか?
2006/09/05(Tue) 19:28 | URL | oha-ran | 【編集
寅さんはTVドラマで見ていて最終回を見て泣いた覚えがあります。それでスッキリ満足してしまい映画の寅さんはほとんど見た事ないのです。(日本人じゃないと石を投げられそう)

>渥美清については「おかしな男 渥美清」(小林信彦、新潮文庫)
tsumireさんのプログを読んで興味がでてきたのでこの本、探して読んでみますね。NHKは再放送を待ちますわ。

>昔の方が現実が今ほど殺伐としてないから、返って変な気を使わんで済んだんだろーか?
昔の方が言いたい放題的なところは、ありましたよね。言っても大丈夫みたいな信頼関係があったから何でしょうが、今は親子でも・・・ですから
2006/09/06(Wed) 08:40 | URL | P子 | 【編集
>私は渥美清=寅さんだったので、この本のいい人どころかけっこう危ない人:渥美清に少々ショックでした

でも寅さんってチョイ悪オヤジなんかじゃなくて、元々もっとヤバイ人だったはずで(生活や性格もさることながら、結局住所不定無職のヤクザもどきなんだし)、それが国民的アイドルになっちゃったことで皆忘れちゃっているんじゃないのかなー。

>そういや、アニメ初期のサザエさんも

ネット情報によると、今放映しているサザエさんも、え?そんなこと言っちゃっていいの?みたいな危険な香りのする回があるらしいですよ。

>昔の方が現実が今ほど殺伐としてないから、返って変な気を使わんで済んだんだろーか?

どんな作品も最初はその作品が持つ「毒」の部分が、受けてたり目新しかったりするもんだけど、それが受け入れられるにつれてどんどん毒の部分を捨てて、もっと他の部分(サザエさんならアットホーム感とか、寅さんならとんちんかんな勘違いぶりとお茶目な行動と暖かい家族の目とか)が描かれるようになるんだよねー。
2006/09/06(Wed) 09:05 | URL | tsumire→oha-ranさん | 【編集
>映画の寅さんはほとんど見た事ないのです

でもTV版の方が本来の寅さんなんじゃないのかなぁ(とかいってさすがにTV版は見たこと無いけど)。

>言っても大丈夫みたいな信頼関係があったから何でしょうが、今は親子でも・・・ですから

昔の方が親子関係だけじゃない関係が周囲にたくさんありましたよね。親戚関係やご近所関係とか。だから何か言って何か言われて傷ついたとしても、それを和らげるクッションみたいなものが今よりも沢山あったのかもしれない。でもクッションを持たない人に対する気配りがなかった時代でもあったんじゃないのかという気もしますが。
2006/09/06(Wed) 09:13 | URL | tsumire→P子さん | 【編集
検索してたまたま見つけました。
この渥美清の肖像~知られざる役者人生~の番組の録画されたVHSかDVDがあれば譲ってもらいたいです。
渥美清さんが大好きな父に見せてあげたく捜しています!
2011/03/18(Fri) 21:23 | URL | たかはし | 【編集
こんにちわ、初めまして。今探してみたらDVDに落とした物はありました。残念ながらお譲りする事は出来ませんし、私がダビングするのも著作権法上問題があると思いますが、私がお貸しして、たかはしさんがご自分の判断でコピーされるのはかまわないと思います。お返ししていただけるのであればお貸し致しますので、ブログ右柱のメールフォームトリご連絡ください。なお、アナログ放送を録画した物ですので画質は今一つです。

渥美清を見たいというだけでしたら、NHKオンデマンドで「バラエティー 夢であいましょう」が見られますし、またNHK番組公開ライブラリーで「NHK映像ファイル あの人に会いたい・渥美清」(2007/09/23)、「新日本紀行ふたたび 寅(とら)さんのふるさとに生きる ~葛飾柴又~」(2007/07/21)他色々と見られるようです。ライブラリを視聴できる施設は以下を参照ください。
http://www.nhk.or.jp/archives/location/index.html
2011/03/20(Sun) 23:24 | URL | tsumire→たかはしさん | 【編集
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